第11回【拒食症】
私は完全に自信をなくしていた。
でも、こんな自分の性格じゃ彼だっていつ私を嫌いになるかわからない。
それに子どもの前で弱い母でいるわけにはいかない。
せめて、見た目だけでもキレイでいなくっちゃ。
自慢の奥さんであり、自慢のママでいなくっちゃ。
その気持ちだけが、私を前向きにさせた。
私は子どもの頃から『痩せている』ことについてはよく周りに羨ましがられた。
劣等感のある姉に唯一勝てるのも、『スタイル』『見た目の華やかさ』だけだった。
自信をなくした私は、〈自分が唯一認めてもらえること〉に執着した。
次第に『太る』ことに対して極端に恐怖を感じるようになり、いつしか食べることそのものが恐怖になった。
当然、元々少なめだった体重はさらに減少したが、私にとってはそれが喜びだった。
が、それに反して身体はもうボロボロで体力もなく、さすがに危機感を覚えた私はそこでようやく病院へ行った。
「拒食症ですね」
想像はできていた。きっとそうだろうとも思っていた。
でも、気づいたところでどうにも出来なかった。
ただ、病院の先生のこの言葉に、少しだけ我に返った。
「今より体重が減るようであれば入院ですよ。ご主人は奥さんを見て何て言ってますか?」
はっとした。もちろん子どももいるのに入院は困る。
そして彼は私に何て言ってるか?
そりゃ食べないことや痩せていることを心配してくれる。
でも、『それだけ』だ。
いくら私が痩せようが、綺麗でいようと努力しようが、彼の異常な束縛も、自信を奪う発言も、何も変わらない。むしろひどくなる。
体力が落ちていく私を見たところで、「俺のせいだ」と思ってくれるわけでもない。
どんなに痩せて綺麗でいようとしたって、彼は何も変わらないんだ‥。
私はここで初めて、自分の行動が『無意味』であると気づいた。
と同時に、私の心と体は、その時点でもう、限界だった。
ちなみに‥拒食症についてはそんなに簡単に治るわけではなく、完治するまであと10年はかかることになる。一つ言えるのは、拒食症の苦しみは実際になった人しか理解できない厄介な病気だということ。私と拒食症ついての長い闘いは、また別に機会にお話できたらいいな。