第12回【裏切り】

それから私は、拒食症こそ治らないものの、少し自分自身を客観的に見る努力をした。
自分が今限界であることを認め、自分の置かれている状況、そして、今の生活を続けることが果たして正解なのかどうかも。

それ以降、私は女友達に協力してもらい、男の人もいる飲み会やイベントにも参加するようになった。
もちろん彼には内緒で。

(もう解放されたい)

その気持ちだけが原動力となり、洗脳が解け始めていた私は、自ら彼を裏切った。

いつバレるかとびくびくすることはあったが、彼のため、そして自分のためだと思っていたことが『無意味』であったと気付いた今、もう、「彼のために」努力する必要性を感じなくなっていた。
嘘をついて出かけることがいいことだとは思わない。
それがわかっていても、私はただ、一人の人間として自由と自信を取り戻したかった。

それでも、当時まだ成人前の子どもにとってはいい父親であり、この生活を子どもから奪ってしまうことには罪悪感があった。
私が我慢をすれば、この子はこの生活を続けることができる。
彼と血が繋がっていないとはいえ、子どもにとっては両親が仲良くしている生活の方が幸せなはず。それを彼から解放されたいというワガママで奪ってしまっていいのだろうか。
我が子を傷付けてまで自分の自由を求めることは母として正解なのだろうか。

少しずつ自分を取り戻しながらも、そんな葛藤の毎日を過ごした。


彼は当然、今までより外出が多くなった私に不満が募っている様子だった。
女だけだと嘘をついて外出していることに気付いてるのかどうかはわからないが、何かにつけて嫌味も言ってきた。

そして、次第に彼も当て付けのように飲み会に行くと言うことが多くなった。




そんなある日、私の葛藤は思いもよらない形で解決に向かった。

彼の飲み会が増えて以来、今までにないほどに「終電を逃したから始発で帰る」と言うことが多くなっていたある朝、私は彼からのLINEで目を覚ました。

「今日はありがとう。一緒に寝れて嬉しかったよ」

(え‥これ、私あてじゃないよね‥)

正直、当時の彼の性格と職業、仕事の立場的に不倫をするなんて有り得ないと思ってたし、あれだけ私を束縛して自分は浮気をするってタイプでもないと思っていた。
だって今まで関わってきたダメ男達とは違ったタイプだったし。

でもそれは明らかに他の女に送ったLINEだった。

彼は過去に私が浮気で苦しんだことも知っているし、もしかしたら私が思い通りにならない仕返しに、わざと私が一番嫌がることをしたのかもしれない。
それこそ私に対する当て付けなのかもしれない。

真相はわからないし色んな意味で予想外ではあったが、幸い以前のようなショックは自分でも驚くほどなかった。

誤送信されたLINEには、私はあえて返信しなかった。
前のダンナのときを思い出すな、と、冷静にこの後どうしようかとだけ考えている自分がいて、
(私なんか慣れてるなー)とか思ったりした ←全然嬉しくない

さすがに彼も送った相手が私であることには気付いたようで、直後に一度電話が鳴った。
私は電話に出る気にもならなかったのでそれを無視すると、少し時間を空けて、

「帰ったら話そう」

とLINEが送られてきた。

その当時の彼は出会ったときの『かわいくて素直』な感じなんてすでになく、お義母さんと同じように偏見で人を判断し、見下すような発言をするプライドの高い人間だったので、帰ってきたときに謝る事はないだろうと予想はしていた。

そして案の定、帰ってきた彼が口にした言葉は、

「好きな人ができた。別れて欲しい」

だった。

あれだけ私に執着し過剰な束縛していただけに、手のひらを返したようなその言葉には違和感を感じたが、もうそんなのはどうでもよかった。

(あぁ‥これで解放される‥)

何よりそれが一番大きかった。


ただ一つ、そのあと彼が言い放った言葉ほど、許せない言葉はなかったけど。

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